はじめに – 「年齢のせい」という危険な思い込み
「最近、ペンをよく落とすようになった」「夜中におしっこを漏らしてしまう」「足がもつれて歩きにくい」
このような症状を「年のせい」と片付けていませんか?ご高齢のご本人やご家族の多くが、加齢による自然な変化だと思い込んでしまいがちな症状の中には、実は緊急性の高い重大な神経障害のサインが隠れている場合があります。
医学の世界では、これらの危険な症状を「レッドフラッグサイン(危険信号)」と呼んでいます。適切な判断により、大切な体の機能を守ることができるのです。
レッドフラッグサイン – 見逃してはいけない危険な症状
1. 夜間痛・安静時痛
症状の特徴:
- 夜中に痛みで目が覚める
- じっとしていても痛みが続く
- 横になっても痛みが和らがない
なぜ危険なのか: 通常の筋肉痛や関節痛は、安静にしていると楽になるものです。しかし、安静時や夜間に痛みが続く場合は、以下の重篤な疾患の可能性があります:
- 脊椎腫瘍(がんの転移を含む)
- 化膿性脊椎炎(細菌感染)
- 骨髄炎
これらは放置すると生命に関わる可能性があるため、速やかな医療機関での精査が必要です。
2. 排尿・排便障害
症状の特徴:
- 尿意があるのに出ない(尿閉)
- 意図しない尿漏れ(尿失禁)
- 便の漏れ(便失禁)
- 排尿・排便の感覚がない
医学的背景: これらの症状は「馬尾症候群」という重篤な神経疾患の典型的なサインです。脊髄の下端から出る神経の束(馬尾神経)が圧迫されることで起こり、以下の原因が考えられます:
- 椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症の急激な悪化
- 脊椎圧迫骨折
- 脊髄腫瘍
3. 急な筋力低下
症状の具体例:
- ペンやお箸をよく落とす
- ドアノブが回しにくい
- 階段の昇り降りで足がもつれる
- 立ち上がる時に力が入らない
なぜ注意が必要なのか: 急激な筋力低下は、神経の圧迫や損傷を示している可能性があります。特に両側の手足に症状が現れる場合は、中枢神経系の重篤な病変が疑われます。
4. 感覚の異常
症状の特徴:
- 殿部、陰部、太ももの内側の感覚がない(サドル型感覚脱失)
- 両足のしびれが急激に悪化
- 痛みや温度を感じにくい
これらは馬尾症候群の典型的な症状で、緊急手術が必要になる場合があります。
馬尾症候群について – 知っておくべき重要な疾患
馬尾症候群とは
馬尾症候群は、脊髄の下端から伸びる神経の束(馬尾神経)が圧迫や損傷を受けることで起こる症状群です。この神経は馬の尻尾のような形をしているため「馬尾」と名付けられています。
主な症状
MSDマニュアルによると、以下の症状が現れます:
- 激しい腰痛
- 排尿障害(尿閉、尿失禁)
- 便失禁
- サドル型感覚脱失(殿部、陰部、膀胱、直腸周辺の感覚消失)
- 下腿の感覚と筋力の低下
- 性機能障害
- 歩行困難
緊急性の高さ
馬尾症候群は医療緊急事態です。治療が遅れると、永続的な麻痺や排尿・排便機能の完全な失失につながる可能性があります。症状を認めたら、直ちに救急外来を受診する必要があります。
高齢者に多い原因疾患
1. 腰部脊柱管狭窄症
特徴:
- 加齢により背骨の中の神経の通り道(脊柱管)が狭くなる
- 歩行時に足のしびれや痛みが出現
- 前かがみになると症状が軽減する(間欠跛行)
進行すると: 神経圧迫が強くなり、馬尾症候群を引き起こす可能性があります。
2. 脊椎圧迫骨折
リスク要因:
- 骨粗鬆症
- ちょっとした転倒や尻もち
- 重い物を持ち上げる動作
危険なパターン: 単なる腰痛だと思っていたが、実は骨折により神経が圧迫されている場合があります。
3. 転移性脊椎腫瘍
注意すべき既往歴:
- がんの治療歴がある
- 原因不明の体重減少
- 継続する発熱
転移性腫瘍による神経圧迫は、急速に進行する可能性があります。
医療機関 vs 整体院 – 適切な選択基準
【緊急】直ちに医療機関を受診すべき症状
以下の症状がある場合は、整体ではなく医療機関を受診してください:
レッドフラッグサイン(危険信号)
- 夜間痛、安静時痛
- 排尿・排便障害
- 急激な筋力低下
- 両側の下肢症状
- 発熱を伴う腰痛
- 原因不明の体重減少
- がんの既往歴がある場合の新しい症状
受診先の選び方
- 救急外来:馬尾症候群の症状がある場合
- 整形外科:腰痛、神経症状がある場合
- 神経内科:広範囲な神経症状がある場合
- 泌尿器科:排尿障害が主症状の場合
整体院が適している場合
医療機関で検査を受け、重篤な疾患が除外された後に:
- 慢性的な肩こり、腰痛
- 姿勢の改善
- 筋肉の緊張緩和
- 関節の可動域改善
- リラクゼーション
併用療法の効果
医療機関での治療と整体を並行して行うことで、以下の効果が期待できます:
- 医療機関:病気の診断・治療、薬物療法
- 整体:筋肉の緊張緩和、姿勢改善、QOL向上
重要: 整体を受ける際は、必ず医師の診断を受けた後であることを施術者に伝えましょう。
年代別・症状別の対応指針
65-75歳の方
注意すべき症状:
- 転倒後の腰痛
- 歩行距離の短縮
- 夜間の腰痛
推奨対応:
- まず整形外科で骨密度検査
- 脊柱管狭窄症の評価
- 必要に応じてMRI検査
75歳以上の方
特に注意すべき点:
- 骨粗鬆症による圧迫骨折リスクが高い
- 症状の訴えが曖昧になりがち
- 複数の疾患を併発している可能性
家族の方へのお願い:
- 歩き方の変化に注意
- 排尿パターンの変化を観察
- 痛みの訴えを軽視しない
具体的なQ&A
Q1: 高齢の親が夜中に痛みを訴えています。整体で良くなりますか?
A: 夜間痛や安静時痛は重篤な疾患のサインの可能性があります。まずは医療機関(整形外科)での検査が必要です。腫瘍や感染症などの除外診断を行った後、問題がなければ整体も選択肢となります。
Q2: 病院と整体、両方通っても良いですか?
A: はい、それぞれの役割が異なるため、並行して行うことで相乗効果が期待できます。ただし、お互いの治療内容を把握するため、両方の施設に通院していることを伝えることが重要です。
Q3: どの程度の症状なら救急外来を受診すべきですか?
A: 以下の症状がある場合は救急受診を検討してください:
- 突然の激しい腰痛
- 尿が全く出ない(尿閉)
- 両足に急激な脱力
- 陰部周辺の感覚消失
- 高熱を伴う腰痛
Q4: 検査で異常なしと言われましたが、痛みが続いています
A: 重篤な疾患が除外されたことは良いニュースです。この段階で整体やリハビリテーションが有効な場合が多くあります。筋肉の緊張緩和や姿勢改善により症状の軽減が期待できます。
Q5: 家族はどのようなサポートができますか?
A:
- 症状の観察:歩行の変化、排尿パターンの変化を記録
- 受診の付き添い:症状を正確に伝えるサポート
- 環境整備:転倒防止、夜間の照明確保
- 緊急時の対応:救急連絡先の準備
転倒・事故予防のための日常対策
住環境の改善
- 照明の確保
- 夜間のトイレまでの経路に足元灯を設置
- 階段には手すりと十分な照明を
- 段差の解消
- 敷居やカーペットの段差をなくす
- 滑り止めマットの活用
- 手すりの設置
- 階段、廊下、トイレ、浴室に手すりを設置
運動・体操による予防
医師の許可を得た上で、以下の運動を推奨します:
- バランス訓練
- 片足立ち(支えがある状態で)
- かかと歩き、つま先歩き
- 筋力維持
- 椅子からの立ち上がり運動
- ふくらはぎの筋力強化
- 柔軟性の維持
- 首、肩、腰の軽いストレッチ
- 深呼吸を伴った体操
注意点: 痛みがある時は運動を中止し、医師に相談してください。

